大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和53年(行ツ)124号 判決 1979年5月28日

上告人 櫟木久助

被上告人 木村喜代一

被上告人参加人 愛知県知事

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木正路の昭和五三年九月一日受付上告理由書記載の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

同昭和五三年九月八日付上告理由書記載の上告理由について

行政事件訴訟法四五条、二三条による行政庁の訴訟参加は、係争の対象である行政処分に関係のある行政庁を訴訟関係に引き入れてその有する訴訟資料等を法廷に提出させもつて適正な審理裁判を実現することを目的とするものであるところ、当該訴訟において行政処分の有効を主張する当事者は右行政庁と利害を共通にするものであるから、右当事者の訴訟代理人である弁護士が同条によつて参加した行政庁の訴訟代理人を兼ねたとしても、民法一〇八条、弁護士法二五条の規定に違反するものではない。原審が中間判決で示したこれと同旨の判断は正当であつて、原審の訴訟手続に所論の違法はない。所論は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張にすぎないところ、原審の訴訟手続に法令違反のないことは、右に述べたとおりである。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下忠良 大塚喜一郎 栗本一夫 塚本重頼 鹽野宜慶)

上告理由 <略>

【参考】 第二審中間判決

(名古屋高裁昭和四六年(行コ)第一八号昭和四九年四月九日判決)

主文

本件につき弁護士花村美樹の被控訴人両名及び参加人の訴訟代理は適法である。

事実

一 控訴代理人は、本件につき弁護士花村美樹は被控訴人両名及び参加人の訴訟代理をすることは許されないと主張し、その理由として、「第一審は、被告両名の申立に基づき、行政事件訴訟法四五条一項、二三条一項により、処分庁である愛知県知事を本件訴訟に参加させたが、右参加は、民事訴訟法六四条の補助参加とは異なり、参加人に自主独立の立場において訴訟行為をさせることによつて、行政事件の適正迅速な解決を図ろうとするものであるから、参加人は当事者の一方と利害共通の立場に立つことは許されないものである。従つて、弁護士花村美樹が被控訴人両名及び参加人の訴訟代理を兼任することは民法一〇八条の精神に反するから不適法である。」旨陳述した。

二 被控訴人両名及び参加人訴訟代理人らは、弁護士花村美樹の被控訴人両名及び参加人の訴訟代理は適法である旨陳述した。

理由

一 第一審が被告両名の申立に基づき行政事件訴訟法四五条一項、二三条一項により処分庁である愛知県知事を本件訴訟に参加させたこと、弁護士花村美樹が被控訴人両名及び参加人の訴訟代理を兼任するに至つたことは本件記録上明らかである。

二 ところで、行政事件訴訟法四五条一項、二三条一項の趣旨は、処分等の存否または効力が争われているかぎり、その処分等の成立並びに有効につき責任のある当該行政庁を訴訟に参加させて争点に関する証拠資料等を提出させ、適正な審理裁判を実現しようとするにあるが、その性質上、処分の成立並びに有効を主張する当事者の側に参加することを予定しているものと解すべきである。そして、当該行政庁を参加させる旨の裁判所の決定があつたときは、その行政庁には、行政事件訴訟法四五条二項により民事訴訟法六九条の規定が準用されるので、訴訟追行上、補助参加人に準ずる地位が与えられ、参加の時における訴訟の程度に従つて、攻撃または防禦の方法の提出等一切の訴訟行為をすることができるが、被参加人の訴訟に不利益な行為はできず、被参加人の行為と牴触する行為をしても無効とされるのであるから、参加人と被参加人とは、その訴訟につき利害を共通にするものと言うべきである。それ故、参加人と被参加人の訴訟代理を兼任することはなんら民法一〇八条、弁護士法二五条の規定の趣旨に牴触するものではない。

三 しかして、本件訴訟においては、控訴人が本件農地の買収及び売渡処分は無効であると主張するのに対し、被控訴人両名は右処分は有効であると争つているのであるから、処分庁である愛知県知事は被控訴人両名の側に参加したものであることは前記説示により明らかである。従つて、弁護士花村美樹が被控訴人両名及び参加人の訴訟代理を兼任することは民法一〇八条、弁護士法二五条の規定の趣旨に牴触するものでないことも前記説示のとおりである。控訴人の主張は採用できない。

四 以上のとおりであつて、本件につき弁護士花村美樹の被控訴人両名及び参加人の訴訟代理は適法である。よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村義雄 西川豊長 寺本栄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例